Workers
ブランドストーリーが共感を生み、仲間を集める。小さな町でも挑戦できることを伝えたい

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日下智子さん
株式会社トーシン/タコシウマイの浜福 代表取締役
- 新地町出身、新地町在住。53歳。就職を機に上京。1994年にUターンし、家業である事務用品等の卸を営む株式会社トーシンの代表取締役に就任。震災後は仲間とともにNPOを立ち上げ、復興支援活動を行ってきた。2022年からは地域食材を活かした商品の企画開発を行う「浜福」を立ち上げ、マネージャーとしても活動を開始。さらに、相双地方の漁港に水揚げされた海産物を主役としたキャンプイベント「ふくしま浜キャンプ飯」を開催するなど、新地町の活性化に情熱を注ぐ。1児の母。
Q1. 活動のきっかけや内容を教えてください。
東日本大震災の直後、新地町の町長として震災復興にあたる父と、消防士として災害対応に携わる夫の姿を見て「私も何か地域の役にたてるだろうか?」と思いを募らせる中、地域の復興をいち早くと同じ思いを持つ有志と共に、復興支援のためのNPO法人を立ち上げて活動を開始しました。
2022年以降は、近郊の漁港で水揚げしたタコを使った海鮮焼売プロジェクト「タコシウマイの浜福」の運営をメインに活動しています。タコシウマイの販売は月間100パックから始めましたが、ありがたいことに口コミや様々な賞を受賞したことで評判が広がり、少しずつ規模を拡大し、2024年8月には新地駅前に加工所を併設した店舗もオープンしました。
また、地域の魅力を伝えるイベント事業にも取り組んでいます。2022年9月から主催しているのが、漁港から徒歩3分の場所にある釣師防災緑地公園キャンプ場で行うイベント「ふくしま浜キャンプ飯」です。海に近いこのキャンプ場で、お肉よりも、地元の海産物を手軽に味わってもらえないかと思って企画したイベントです。このイベントは、地元の漁師と一緒にホッキ貝剥きを体験したり、その場で新鮮な海産物でキャンプ飯を調理して味わったりする特別な体験ができます。
他にも、農作物や雑貨などのブースやキッチンカーが集まるマルシェ「釣師潮風マーケット」を定期的に開催し、地域のにぎわいを創出しています。
「ふくしま浜キャンプ飯」には全国各地から参加者が集まる
Q2. 地域活性化につながる商品開発やイベントを企画運営するときに大切にしていることを教えてください。
商品開発をするときは、その背景にあるストーリーを大切にしています。
東日本大震災の翌年、福島県の漁港で試験操業が始まった際、真っ先に水揚げされた海産物がタコです。私は「タコ」の響きに「多幸(たこ)」の漢字を連想して、福島県で漁を再開できた幸せな気持ちを全国に届けたいと考えました。このストーリーをもとに開発したのが「タコシウマイ」です。タコシウマイの名前は、「タコ」と新地町の「シ」、美味しいを意味する「ウマイ」の掛け合わせです。販売価格の1,150円も「いいご縁」の語呂合わせです。パッケージにもこだわり、ストーリーと共に手土産にしたくなるようなインパクトのあるデザインにしました。
また、人に協力をいただけるときは、相手のメリットも考えるようにしています。例えば、「ふくしま浜キャンプ飯」では地元のお店の方がボランティアで参加してくれます。協力いただいた先に、イベント参加者がSNSで商品を紹介してくれたり、後日お店にお友達と来てくれたりと、広報や集客という面で、広がりができるように促します。商品やイベントに込めた想いをストーリーにのせて伝えることで、共感を生み、人が集まります。さらに、みんながWin-Winの関係になる巻き込み方を心がけることで、活動の継続と発展につながっています。
Q3. 活動と家庭の両立はどうされていますか?
現在は活動に力を入れているので、家事はほとんど夫と息子に任せています。最初は抵抗がありましたが「手伝って」と素直に話して、協力を得てきました。今ではそれが家族の日常です。ただ、忙しくても毎朝のお弁当作りは欠かしません。また、家庭で困りごとや私でないと対応できないことがあれば、優先的に対応しています。
Q4. 今後の目標・ビジョンを教えてください。
私の目標は、小さな町で新しいことを始めたファーストペンギンとして、これから各地域で新しいことに挑戦する人たちのロールモデルになることです。
小さな町でも夢に挑戦できると、私の活動を通してみなさんに伝えたいです。若い世代の人たちが「私もこの町で挑戦してみたい」と思うきっかけになれば、こんなに嬉しいことはありません。
実際にタコシウマイがジャパン・フード・セレクションでグランプリを受賞したり、イベントの参加者が3,000人に増えたりと、成功例を示すことができました。これから何かを始めようとする人たちには、私の事例を参考としていただき、大きく活躍してほしいと思っています。
ジャパン・フード・セレクション以外にも様々な賞を受賞
Q5. 地域で新たなチャレンジを始めたい女性へメッセージをお願いします。
何かにチャレンジするときは、失敗を恐れる必要はありません。失敗したと捉えるのではなく、1つ経験を積めたと解釈すれば、成功へ続くステップを踏んで前に進めます。
また、これまでの経験を踏まえた視点や感性も大切です。私はタコシウマイを開発する際、子育ての経験から「高齢の方やお子さんにも食べやすい、柔らかい食感にしよう」と考え、タコを細かくみじん切りにしました。今となってはそれがタコシウマイのセールスポイントの一つになっています。その視点がなければ、主役であるタコの存在感や噛み応えに注目して、大きめにカットしたかもしれません。
まずは最初の一歩を踏み出してみてください。一緒に地域を盛り上げましょう!
・私を支えたコンテンツ
『道をひらく』『日日是好日』の2冊です。心に響く素敵な言葉がたくさん書かれています。
・私の最初の一歩
考える時間が欲しいときは、散歩をしています。車の移動では気づかない、地域の姿に気づくことも。
(2025年7月取材)
(インタビュアー:さわきゆり 撮影:古関 マナミ)
基本情報
- 企業・団体名
- 株式会社トーシン/タコシウマイの浜福
- 代表者
- 日下智子
- 事業内容
- 地域食材を活かした商品の企画開発・製造・販売
- 所在地
- 福島県相馬郡新地町駅前1丁目18-2
- TEL
- 0244-26-7844
- FAX
- 0244-26-7845