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インタビュー記事

Workers

声を届ける、まちを変える。町民と議会をつなぎ、だれもが政治に参加できる社会を

乾初美さん

石川町町議会議員

石川町出身、石川町在住。39歳。大学で臨床心理学を学び、結婚・出産後は子育てに専念。2012年、震災を機に家族でUターンし、衆議院議員秘書を経て2019年に町議会議員に初当選し、現在2期目。議員として、子育て支援や若者の政治参画に力を注ぎながら、消防団員や青年会議所理事長として地域活動にも取り組む。パワーリフティングの指導資格を持ち、自宅ジムで女性やシニア向けの健康づくりもサポートしている。高校生・中学生・小学生の3児の母。

Q1.石川町で、町議会議員に立候補したきっかけを教えてください。

東日本大震災が発生したとき、私は大阪で育児に励んでいて、地元・福島の状況をテレビ越しに見守ることしかできず、もどかしい日々を過ごしました。不安な日々のなかでも、地元に残って暮らし続ける同級生や、子どもの頃からお世話になった方々が前を向いて頑張っている姿に心を動かされ「自分を育ててくれた町で、私も子育てがしたい」と決意。2012年に家族で石川町にUターンしました。

子育てをしながら就職活動を始めましたが、半年間ハローワークに通っても社会人経験のない私を採用してくれる会社はありませんでした。そんなとき、町議会議員選挙を手伝う機会をいただき、そのご縁から、当時自民党福島県第三選挙区支部長だった上杉健太郎事務所の事務員に応募しました。そこでは「子育ては立派なキャリアだ」と評価してもらい、採用が決定。これまでの自分を初めて肯定してもらえた気がして、救われたことを覚えています。それからは秘書として政治の現場に関わり、選挙の仕組みや地域課題について無我夢中で学び、奔走する日々でした。
2019年の石川町議会議員選挙を前に「これまでの経験を生かしてみては」と地域の方々の声をたくさんいただきました。立候補を決断するまで本当に悩みましたが、その声に背中を押され、「地域をよりよく変えるために勇気を持って一歩を踏み出そう」と覚悟を決めました。

Q2.町議会議員として具体的にどのような活動をされていますか?

町民の声を議会につなぐことが、私の大切な役割です。たとえば、地域のお母さんたちから「子どもが通学に使う交差点に横断歩道や信号がなくて危ない」という相談を受け、警察署や町と連携して横断歩道と歩行者用信号機、グリーンベルトの設置を実現しました。
そうした声を拾う場として、1期目では町民相談会を実施しました。予約不要でふらっと立ち寄れる場にすることで悩みや要望を直接伺うことができ、さまざまな課題が見えてきました。現在はその内容を整理・検証し、よりよい形で再スタートできるよう準備を進めています。
また、自分自身の子育ての経験も日々の活動に活かされています。町の子育て制度の中身を見てみると、良い制度なのに、内容が十分に伝わっていなかったり、実際には使いづらいものがあります。そうしたギャップを埋めていくことも、現役子育て世代である私の役割だと感じています。

Q3.町議会議員のやりがいを教えてください。

町民の方の声を制度や仕組みに反映し、よりよい方向に変えることができた時に何よりのやりがいを感じます。たとえば「制服にスラックスを導入してほしい」という中学生と保護者からの要望を受けたことがありました。議会では「みんな言ってる」ではなく、正式な形で声を届ける必要があるため、生徒たちに「生徒会という公式な仕組みを使って提案してみては?」とアドバイスをしました。そうして働きかけた結果、実現に至りました。子どもたちが「自分たちの声が届いた」と実感してくれたことがうれしかったですね。

議員という仕事は、何をどこまでやるかは自分次第です。やりがいが大きい反面、プライベートとの境界があいまいになりがちです。私は町議としての活動に加えて、消防団にも所属し、青年会議所の理事長も務めています。子育てもあるため、完全オフの日はほぼありませんがとても充実しています。

また、個人の活動にはなりますが、産後の腰痛をきっかけに始めたパワーリフティングにもやりがいを感じています。心身の不調には運動が効果的だと身をもって実感。プロの指導の下、運動できる場を石川町に作りたいという想いから、トレーナーの資格を取得し、自宅の一角を予約制のジムとして開放しています。運動はお母さんたちの産後うつ予防にもなりますし、実際に利用している方からは「ここで話をするだけでも気持ちが楽になる」「体型が変わって自信が持てるようになった」という声をいただき、私自身の励みになっています。

自宅の一室をジムに

Q4. 仕事と家庭の両立はどうされていますか?

初当選したとき、地域の方から「子育ては絶対に犠牲にしないように」と声をかけていただいたんです。だから、育児は手を抜かずにやると心に決めています。その分、掃除などの家事は「できないものはできない」と割り切るようになりました。
今年3月、議会と長男の卒業式の日程が重なってしまいました。はじめは公務を優先するつもりでいたのですが、議長と委員長に相談したところ快く送り出してくださり、卒業式に出席できました。卒業式を理由に公務を休んだのは、町議では私が初めてだったそうです。子育てと議員活動の両立がしやすい環境を、少しずつ広げていきたいです。

Q5. 今後の目標・ビジョンを教えてください。

若い人や女性が、もっと気軽に政治に関われる環境をつくりたいと思っています。そのためには、議会の仕組みを見直すことが必要です。ハラスメントのない、安心して働ける場にするのはもちろん、子どもの行事にも参加できるような、家庭と両立しやすい仕組みも大切です。その第一歩として、会議規則の見直しなど、制度の改善にも取り組んでいきたいと考えています。

Q6. 政治分野にチャレンジしたいと思っている若い世代へメッセージをお願いします。

まずは勇気を出していろんなことに挑戦してみてほしいです。私が今やっている町議会議員の仕事も、パワーリフティングも、最初は周りから「やってみたら?」と背中を押されたのがきっかけでした。実際にやってみると、どちらも自分に合っていて、「楽しい」「続けたい」と思えるものになりました。だからこそ、たくさんの人と出会って、いろんな人の話を聞いて、自分の可能性を広げてほしいです。思いがけないところに、あなたにぴったりのチャンスがあるかもしれません。

学生インタビュー 鷲谷羽南さん(県立安積黎明高校1年)

Q.大学でカウンセリングを学んだ経験が、今の議員としての活動や政策立案にどのように活かされていると感じますか?

「傾聴」の大切さが、議員としての活動に活きています。町民からは様々な要望があるため、まずは丁寧に話を聞き、寄り添う姿勢を大事にしています。実現が難しい内容でも、一生懸命話を聞くことで、相談者が涙を流して「聞いてもらえただけで良かった」と言ってくれることも。話すことの多い立場だからこその、聞く力の重要性を改めて感じています。

Q.議員活動・家庭の子育て・パワーリフティングの競技活動の3つはそれぞれが互いに良い影響を与えていると考えますか?

良い影響を与えています。子育ての面では、自身が忙しくする中で、子どもたちは自然と自分で考え、行動する力を身につけていきました。息子が生徒会に立候補し、公約の相談をしてくれたことが、「母としての背中を見てくれたのかな」ととても嬉しかったです。

Q.政治への関心が薄い若い世代にはどんなことが必要だと思いますか?

政治への関心が薄い若い世代には「政治に触れるきっかけ」が必要だと思っています。私も若いころは政治は遠い存在だと思っていましたが、関わってみて初めて、政治の近さや大切さに気づきました。

インタビューを終えて

石川町町議会議員の乾初美さんにお話を伺い、子育てと向き合いながら道を切り開いてきた姿勢に心を打たれました。困難な状況でも諦めず、目の前のことに誠実に向き合っている乾さんは凛と咲く一輪の花のようで、私たち若者に希望を与え、これからの政治に求められている人だと感じました。「置かれた場所で一生懸命に」という言葉が印象的で、私自身、今自分がやるべきことをまずはがむしゃらにやってみようと背中を押していただきました。実際に今回インタビューを通してお話を伺ったことで、私自身も政治への関心が高まりました。大人になる前に「知る機会」があることが、関心を持つ第一歩になるのだと実感しました。学生として取材に同行し、社会で活躍する女性の言葉を直接聞けた経験は、自分の将来を考える上でも大きな学びとなりました。

・私を支えたコンテンツ

⚫︎本
藤原新也著『メメント・モリ』。“世界はもっと広い”と気づかせてくれる一冊です。
⚫︎映画
『帝一の國』。町議会議員に立候補するか迷っていたとき、一歩踏み出す勇気をくれた映画です。

・私の最初の一歩

まずはやってみる。やるからには一生懸命やる。置かれた環境で精一杯努力する。

(2025年7月取材)
(インタビュアー:奥村サヤ  撮影:古関 マナミ)

基本情報

企業・団体名
石川町議会議員
代表者
乾 初美
事業内容
所在地
福島県石川郡石川町下泉186(後援会)
TEL
FAX
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