農作業だけでなく、ビール醸造に接客も。「自分にできること」を探して走り続ける

加藤絵美

株式会社カトウファーム 専務取締役

福島市出身、42歳。2009年に脱サラし、夫の祖父の田んぼを受け継いで就農。2014年に夫と株式会社カトウファームを設立し、専務取締役に就任。東日本大震災を経験し自分にできることを模索する中で異業種へのチャレンジを決め、2020年にビール醸造所「Yellow Beer Works(イエロービアワークス)」を開設。2022年には直営店のビアスタンド(クラフトビールとおむすびの専門店)をオープンさせ、自らも店頭に立つなど多忙な生活を送る。4児の母。

Q1. ビール醸造とビアスタンド開業のきっかけを教えてください。

就農当初は農業をマイペースでやっていくつもりでしたが、2年後に東日本大震災が起き、風評被害にあうなど環境が一変。県外から福島に来て復興支援の活動をしてくれる方々を見て「福島にいる自分にできることは何だろう」と模索するように。ヒントが欲しくて、日本各地で地域活動をしているキーパーソンに会いに行きました。その中で、三重県でクラフトビール醸造会社社長に出会ったことが最初の転機です。

その後、南相馬市で復興支援として米作りを始めました。ビール大麦とホップの生産も始めたことがきっかけで、「自分達で醸造もやろう!」と醸造所を開設したんです。

醸造を始めた当初は地元の飲食店にビールを取り扱ってもらおうと考えていましたが、コロナ真っ只中で飲食店も大変な時期で…。地元で楽しんでほしいと作ったビールなのに、飲んでもらえる場所がなく、もっと気軽に飲める場所を作りたくて街中にビアスタンドもオープンさせました。

Q2. 女性農家として大変だったことはありますか?

最初は「農家の嫁」という立場にとらわれ、体力がいる農作業こそが仕事と思っていた時期もありました。「自分にできること」を探してマルシェイベントの出店やSNSでの情報発信、ビール醸造を手掛けるうちに、忙しくて農作業に手が回らない自分にいら立ったり、農家と名乗っていいのか悩んだりしたことも。

そんな時、祖母が農作業に加えて家事はもちろん、人が来ればお茶を出し、手伝いの方にご飯も出すなど、農作業以外のこともすべてを広くカバーして家を支えていることに気づきました。それからは「農家には農作業だけにとらわれない広い視野が必要なんだ」と気持ちを切り替え、積極的に情報発信やお店での接客もできるようになりました。

Q3. 仕事と家庭はどう両立していますか?

両立は私にとって永遠のテーマです。仕事も家庭も、夫と二人で必死に何とか乗り切る毎日です。気が付いたら子どもたちが自分でお弁当を作っているなど、家族皆で乗り切っているように感じます。

心がけているのは、優先順位を間違わないようにすること。
家族優先の日、仕事優先の日など、その時々で優先順位を決めて動いています。とはいえ思い通りにいかないこともありますし、部屋が多少散らかっていても気にしないなど、完璧を求めすぎないことも大事ですね。

Q4. 今後の目標を教えてください。

カトウファームでは現在、70 ha(1 ha = 10,000平米)の田んぼを管理しています。高齢などを理由に田んぼを手放す方から引き継いでおり、年々増えています。120 ha分を受け入れ可能な設備を作ったので、そこまで増やせればと考えています。
ビール醸造の目標は「Yellow Beer Works」のビールを全国から指名買いしてもらえるようにすること!

はじめは米農家がビールを作るだけで面白い、ゴールだと思っていましたが、気づけば今もずっと走り続けています。クラフトビールメーカーはどんどん増えていますし、油断したらすぐに売れなくなるので、これからもビールの味を探求し、進化させ続けたいです。

Q5. 新規就農を目指す女性へメッセージをお願いします。

農業は、家庭菜園などいくらでも小さく始められます。私のように基盤が整っているところを受け継ぐのも面白いと思います。農業といってもお米、野菜、果物などでそれぞれ違うので、いろんな事業を見て、何を作りたいか見つけるところから始めてみてください!

(2023年7月取材)

(インタビュアー:貫井 暖香  撮影:古関 マナミ)

基本情報

企業・団体名
YellowBeerWorks・農業生産法人 株式会社カトウファーム
代表者
加藤 晃司
事業内容
設立 2014年12月11日
水稲栽培、クラフトビール醸造
所在地
福島県福島市大町9-10(YBW文化通り店)福島県福島市大笹生字横掘12-1(株式会社カトウファーム)
FAX